花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
にこりと、花咲くような笑顔を残して、すっかり浮かれ足で出て行った綾人の後を追うように小梅も部屋をでて行った。残された千早が目を丸くしている。昨日会ったばかりの自分の分も小梅が昼ご飯を作ってくれるなんて思いもしなかったのだろう。驚くのも無理はない。でも、小梅は昔からそうなのだ。千歳は知っているから驚きはしない。
「そういや、僕って言ってなかったか?」
「……小梅が、女の子はわたしって言うんだって言ったから……」
二人残され、しばらくは沈黙が支配していた部屋。綾人はとっとと追い払いたかったのに違いないが、小梅まで行ってしまうとは千歳も思っていなかった。予想外の二人きりという状況に陥り、何を話したものかとついつい戸惑ってしまった。千早相手だと、どうにも気まずい思いばかりが先立ってしまう。
「そか……」
どうにかしぼりだした問いかけに返ってきた答えに、振り返ることなく短く答える。そんな千歳の背中越しに、不意に千早が、
「ありがとう……」
そんな台詞を吐いたものだから、思わずびくりとしてしまった。おそるおそる振り返る。
「何が?」
「……わたしのこと……助けてくれようと、してるんだろう? さっきも困っていたらかばってくれた」
「ああ……あれか」
じろじろ見るなと綾人に言ったことを言っているらしい。
「いや、なんていうか。俺が見られてるような気分だったしな……あいつはちょっと遠慮がなさすぎる」