花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「で? どこなんだ……その、心当たりの場所って」
 顔を背けた千歳の様子を気にする素振りはみせず、千早が訊いた。
「ああ、そうだな。……とにかく、行って見るか」
 促されて思い出したその場所。行く価値はあるだろう。
 思えば今日理事長が出張だったのは幸運だったかもしれない。普段から、少しでも時間があるとすぐにそこにやってくる。何時くるかは予測もたてられない。だからじっくり調べものをするのなら、理事長が学園に居ない時にこしたことはない。
 部屋を出て木立を抜け、出口近くで様子を伺う。
 幸い授業中。今日は一限目に体育のクラスもないようだ。校庭に人影は無い。校舎を挟んで反対側にある研究室へ向かうには校舎裏から行ったほうが近いのだが、午前中は食堂の仕入れや、学校教材の納入業者が出入りすることが多い。人目を避けるなら、遠回りにはなるが、校庭を取り巻くように植えられた木立沿いに行ったほうがいいだろう。
「こっちから行くぞ」
 横に並んでおとなしく待っていた千早の手首を掴みぐい、とひく。
「え? ……あ……」
「――?? 何? なんか……」
 何故か妙な声を上げた千早の声に千歳が振り返ると、千早と目があった。何故か困ったような顔をしているように見えて……それが何故だかわからず千歳は首を傾げる。千歳に問われた千早はすぐに首を横に振って表情を固くした。
「いや……なんでも、ない」

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