花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「待たせたな。いいぞ入って」
再び開いたドアから現れた千歳は何故か髪も乱れ、息も切れ切れだ。
「どうかしたのか?」
「いや、気にするな。それより足元気をつけろよな」
招かれてドアの中に踏み出そうとして、足元に目をやれば小さなプラスチックの球のようなものが無数に散らばっている。それに足を滑らせないように気をつけろという事らしいとすぐに理解して、千早は用心しながら千歳の後を追った。
千早がついてくる足音を聞きながら、先に入って正解だったと千歳は胸をなでおろす
案の定。先日と同じく、派手な出迎えをうけたのだ。幸運な事に仕掛けられたトラップに変化は無く、今回は水攻めを間逃れた。
何かをなくしてしまったことに理事長はかなり動揺していたからトラップを新たに作りかえる余裕は無かったのだろう。それでも、千歳一人ならともかく、千早と二人同時に入れば全部は防ぎきれない。
千早はここに覚えがないと言っていたから、あっさりセンサーに引っかかっただろう。
それを予測して先に入って、所長室前にあるブレーカーを落としてきたのだ。
昼間だから電気が無くとも室内は充分に明るい。廊下は窓が無いからさすがに少々薄暗くはあるが、それでも歩くのに支障は無い。静かな廊下を真っ直ぐに進み突き当たりのドアを開ける。所長室に足を踏み入れた千歳はすぐさま顔をしかめた。
今日も酷い散らかりようだ。
昨日具合が悪くてバイトをサボったせいもあるのだろうが、いつも以上に散らかっている。一体何を作ろうとしていたのやら……いつものごとくテーブルに散乱するビーカーや紙くずは勿論のこと、粘土のような土の塊まで置いてある。
「ここにも覚え……ないよな?」