花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
ふと、テーブルの上に置かれた本に目が止まった。開かれたまま置かれた本のページは英文がぎっしりと並んでいて、正直何を書いてあるかなど読めはしないのだが、そこに添えられてる挿絵に見覚えがあった。魔方陣と妖精の絵。
「これって……」
先日見たばかりだ。見間違えではない。試験管を割って捨てたあの日にも、こうして同じページを開いてテーブルに置かれていた。
理事長はまた同じものを作ろうとしていた?
でも、一体何を?
千歳が割ってしまった試験管。あれを処分したといった時の理事長のショックの受け方はひどいものだった。つまりは、あの試験管の中身こそ、あの日理事長が作っていたもので、なくなってしまったもの。
「どうかしたのか?」
じっと本を凝視していると千早が横に来て同じように本を覗き込んだ。
「何か気になることでも書いてあるのか? なんて書いてあるんだ?」
書かれている文字を目で追ってみるものの、やはり千早にも読めないらしい。
「うーん……俺にも読めないんだけど……」
そう言いかけた時。
「……知ってる……」
不意に、千早が何かを呟いた。
「え?」
「これ……知ってる」
開かれたページにある部分を指差して、千早が眉根を寄せている。よく見ると、千早が指差したその部分だけは英語ではない。何かの単語なのだろうか、記号のような文字がアルファベットの海に埋もれるようにして一際異彩を放っていた。
「え? 読めるのか? それともどっかで見たとか?」