花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「おい。まさかお前……俺の写真もこっそり撮ったりしてないだろうな?」
口の中のものを飲み込んで、疑惑の目を向ける千歳。
「え~? なんのこと?」
綾人は口笛混じりに知らないふりをしたが、それは余計に千歳の疑惑を深めた。全く油断も隙もありはしない。
「いや、だって写真なきゃ他校の奴に千歳っちの名前言ったとこでわかんないでしょ? だから朝ここ出る前に千早っちの写真をすばやくゲットしただけだって。俺って有能~」
「ごたくはいいから。で? 誰か知ってる奴居たのか?」
「あ……ああ……」
鼻高々に自分の有能振りをアピールしていた綾人だったが、千歳に答えを求められた途端、喋る勢いが一気にスローダウンした。
「う~ん。それが不思議なことに……誰も知らないんだなー。合コン仲間とか部活知り合いとか片っ端からあたったから市内全域の高校はあらかた網羅できてるはずなんだけど、今のとこ千早っちらしい女の子がいるって情報はないんだよな~」
「は? 市内全域?」
思わず千歳は目を丸くする。さらりと綾人は言ったが、正直そこまであちこちに聞いているとは思わなかった。本当に真面目に探してくれたらしい。それにしてもどれだけ交際範囲が広いのだろう。さすがにちょっと驚いた。
「まあ、まだメール帰ってきてない奴もいるからわかんないけどね。ちなみに校内の奴の目撃情報はやっぱ千歳っちのことばっかだな。校内か近所のコンビニくらいしか聞かないし……似てる女の子なんてのも誰も知らないって」
「ま……そうだろな。校内とか近所にいたら、とっくの昔に俺らのうち誰か一人くらいは聞いたことあるだろうしな」