花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 デスクから雪崩れ落ちそうになった本を無事キャッチ……だが、デスクの上に置かれてた他のものの落下までは防げない。バラバラと何かが床に散らばる音。ついでガラスのようなものが割れる音がした。
 何だろうと視線を床に落とした千歳は、割れたのが試験管だと気付くやいなや息を止めた。
 同時に床に広がった暗褐色の液体が、見たこともないような不気味な色の炎を上げるのを見て瞬時に後ろへ下がろうと踵に力を込める。
 しかし、千歳が飛び下がるより一瞬早く、炎は一気に膨れ上がった。
「ちぃっ!!」
 膨れ上がった炎が前髪を撫でて、ほんの少し焦げ落ちてしまった。
 そのことに舌打ちしつつ炎から逃れた千歳は、出窓にかかるカーテンへと手を伸ばし強引にひっぱりはずすと、そのカーテンを炎にかぶせるように叩きつける。
 実験の失敗による小規模な爆発は日常茶飯事。
 よって研究所内のカーテンは全て防炎加工してあるものを取り付けてある。
 炎の逃げ道を遮っておいて、千歳はデスクの一番下に入れてあるガスマスクを取り出し素早く装着。
 一体何を作っているかわからないものが誤って試験管からでてしまった場合、それらの成分を含んでしまった空気を無防備に吸い込むのはなんとしてでも避けねばならない。
 それにしても、ごくごく平和な日本の、その中でももっとも安全であろう学校というフィールド内に、何故ガスマスクなんかが置かれているのか……それを考えるだけでも千歳は己の不遇が嘆かわしくなる。
 特にそれにすっかり慣れっこになってこんな冷静な対応を取れる自分が嫌になる。
 ガスマスクを装着した上で部屋の中にあった消火器を手に取り、安全ピンを抜くと落ち着いてカーテンの下で蠢く炎目掛けて噴射。

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