花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 もともと勢いを失いつつあった炎は、床に零れた液体も気化し尽くしていたためすんなりと消火できた。
「はあ……はあ……」
 ガスマスクの下で額から汗を垂れ流しながら荒い息を整える。
 それが落ち着いてようやく掃除道具を手に仕事に取り掛かった。
 まずは窓を全開にして空気の入れ替えをはかる。
 建物に入った時からゴム手袋は装着したまま……これなら遠慮なく怪しげな液体を扱ったものでも触ることが出来る。テーブルの上の試験管やビーカーをあつめて実験室へ運び、洗う。それを棚に戻して廊下、所長室へと移動していく。
 今日は二階の掃除はパスだ。びしょ濡れのうえ、無数のプラスチック弾の散らばる廊下だけでもかなりの時間がかかる。
 ようやく廊下が元の状態に戻って、一番の難所である所長室の片付けに取り掛かる。
 デスクの上に散らかった本を書棚に戻し、床の紙くずを拾い集め、デスク横のゴミ箱の中身をゴミ袋にひっくり返す。一応ゴミ箱の中にもゴミを入れてはある。どうせなら全部ちゃんとゴミ箱に入れておいてくれるといいのに、と思いつつ最後に残った塵とカーテンの燃えカス等を箒で塵取りに集め終えた頃――
「やあやあ、加賀見君。今日も真面目にやってるね」

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