花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「言っただろ……わかってるんだ。体で理解してる。僕は……わたしは……人じゃない。聞かなくても、はっきりしてるんだ。千歳達だって、本当はわかってるんだろう? わたしの存在はおかしすぎる。あるはずのない、いるはずのない存在だって」
千歳の目を見据えたまま、淡々とそう言い、千早は自らそれを確定付ける。
「わたしは、ゴーレムだ。人じゃない。千歳達とは違う」
千歳は言葉を返せなかった。それを完全に否定できるだけの材料を千歳は持っていない。むしろ現状で揃っているのは千早の言葉に説得力を持たせる痕跡ばかりなのだ。ここで否定したところで気休めにしかならない。千早が体で理解したというのは本当なのだろう。千早にしかない感覚だから千歳達にはわからないが、千早がそう言うならそれを嘘だとは言えない。ついたところで何の特にもならない嘘を吐く理由が無い。
「でも、どっちにしても……それが本当だとしたら余計に、お前のこと……理事長に責任とらせなくちゃいけないだろ」
否定は出来ないから、それでも連れて行く理由をようやく搾り出す。
「このまま何もはっきりさせないままじゃ、お前、困るだろ?」
「……そうだね。このままじゃ、困るね」
そう答えた千早の表情が、微かに緩む。薄暗くともまだかろうじて表情の変化は伺える。
千歳の視界の中、風にあおられ揺れる、自分と同じ……千早の少し長めの前髪。その下にある黒い瞳が伏せられる。
「……今の状態も……悪いとは思ってないんだ」
千早はぽつりと言った。
「小梅は可愛くて優しいし、綾人は少し苦手だって思うときもあるけど面白かったりもするし……二人といるのは楽しい。それに、千歳は……」