花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「独りで行くよ。小梅の父親がわたしを作った本人なら……きっとあの文字の消し方も知っているだろう?」
「……千早。お前……」
何を言っているのか、何をしようとしているのか、わかってしまった。そして、どんな気持ちでそんな言葉を吐いているのかも――
ザザ……
そよぐ程度に吹いていた風がほんの少し強さを増して、頭上の枝葉を揺らす。
ぬるくも無い、冷たくも無い……涼しい風。校内中を走り回って滲んでいた汗もとっくに冷えて乾いている。暑さは微塵も感じない。
なのに。
喉はからからに渇いていて、上手く、言葉を紡げない。
『なんでだよ……』
歪んだ笑顔。自分と同じようでまるで違うその顔は、今にも泣きそうで。
笑ってるのに、とてもつらそうで。
『そんな顔、するなよ』
そう思いながらも。そしてそんな表情なんて見たくないと思いながらも、その顔から視線をはずせなくて。そして、少しだけ思った。
自分も、今……あんな顔をしているのかもしれないと。
『全く……』