花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 なんでこんなことになってしまっているのだろう。どうして自分までこんな思いをしなくてはならないのだろう。
 どこから来たのかもわからない、面識もなかった相手に。
 人でないかもしれない相手に。
 それでも、あんな顔を見てしまって……こんなに動揺している。千早のものなのだろうか、胸をちりちりと焼くような痛みは確かに千歳の胸にもあって。
 伝染している。
 どちらのものがどちらに伝染っているのかすら、もうわからない。
 どうしてこんなに苦しいのか。
 わからない。わけもなくぐちゃぐちゃな思考の中で、ひとつだけ千歳にわかったのは、多分、千早にそんな思いをさせているのは自分なのだということ。そしてそれを取り除けるのも自分だけなのだということ。
「あのさ……」
 千早の腕を掴んだ手に力を込めた。ずっと伏せられたままだった千早の瞼が微かに震えるのを見ながら、意を決して口を開く。
「確かにびっくりしたし、混乱したけどさ。でも、お前は今、現実にこうしてここにいるわけだろ。確かに似てるけどさ……俺は俺で、お前はお前だろ。……そっくりの奴がいたからって、どうだってんだよ。そんなこと言ってたら双子とか三つ子のやつはどうなる」
「千歳……?」

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