花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「黙れ。言うな。よくわからないことを言ってるのは俺もわかってるんだよ。とにかくだ……俺は自分が自分でさえあればいいわけで、お前がいたからって俺が俺じゃなくなるわけでもないし……だったら何も問題ないだろ」
 気持ちを言葉にするのがこんなに難しいことだとは思ってなかった。いや、その気持ちすら上手くまとまっていないのだから仕方はあるまい。ただ、ひとつのことを伝えるのにここまで苦労するなんて。
 ただ、そんな顔を見たくないと思った。
 そんな事を思って欲しくないと思った。
「余計なこと考えるな。勝手に人の気持ちを決め付けるな。誰も迷惑とか……消えて欲しいなんて思ってもねえんだよ!」
「その通り~」
 半ば叫ぶように言った言葉に、呑気な声がかぶせられる。
「ちーちゃん素敵です」
 小さな拍手のおまけつきで。
「なっ……」
 振り返った千歳の背後に、何時の間にか並ぶ大小二つの影。
「時間過ぎてもなかなか来ないから迎えに来たぜ~」
 手を叩く小梅の横で綾人が手をひらひらと振る。千早にどう言おうかと必死すぎて、二人が来ているのに全く気が付かなかった。必死な姿を見られてしまったとハッとして、一気に恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「お? 千歳っちが照れてる照れてる」
「ばっ……ちがっ……」
「おお。なんか焦ってる焦ってる。やたらすんげえかわいいんだけどお~」
「お前っ……ちょっと黙れ! 少しは空気読めよ!」

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