花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
◆花は踊る影は笑う
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「わ……わわわ、ごめん。ごめんなさいっ。小梅! パパが悪かった。悪かったから落ち着いてっ!!」
白髪の束を思い切り捻り引っ張りながら、身を刺すような凍りついた視線で下から睨みつける娘の気迫に押され、龍馬は悲鳴に近い声を上げる。そんな龍馬の足の甲には、小さな小梅のローファーの踵が容赦なくめり込み、ぎりぎりと抉るような音が時折りあがる。
理事長VS娘。
ほぼ一方的に小梅が優勢な親子対決。小梅の怒り様は凄まじく、綾人も千歳も言葉も発せずぽかんと見守るしか出来ない。
案の定――出張先から真っ直ぐ家に戻ることなく研究室へやってきた理事長を出迎えた一同。千早を見た瞬間に、親戚でも遊びに来たのかねと、鼻の下を伸ばしてでれでれと呑気なことを言う理事長の頭を、小梅が手にした鞄で張り飛ばした。
そこからはもう小梅の独壇場で……魔術書を突きつけ事態の説明をして、一体何を作ったのかと問い詰めると、理事長はあっさりと自分の所業を白状した。
「しかし……そうか……すっかり失敗したものだと思っていたけど……出来ていたんだな、ちゃんとゴーレムが。やはり私の方法に手違いは無かった。ふむ……文字はこんなふうに出るのか」
確認のために見せた千早の背中の文字。それにうっとりとしながら触ろうとした理事長の手を、寸前で小梅が素早く叩き、そして理事長の体を足で突き飛ばした。そのまま壁際に追いやり、今の状況に至る。