花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「もう終りかい?」
理事長が白衣に腕を通しながら、千歳の手に握られた塵取りを目で促す。
「ええ、塵取りのゴミを袋詰めしたら終りです」
さっさと帰ろう。
そう思い、ごみ袋に集めたばかりの試験管の欠片と煤を移して袋の上を縛る。
片手に袋を持ったまま塵取りと箒を用具入れに片付けて、
「もう帰りますから。あんまり散らかさないでくださいよ。せめてお菓子の屑くらいゴミ箱に捨ててください。だいたい、いい歳してなんであんなにお菓子ばっかり食べるんですか」
「加賀見君。頭を働かすには甘いものが必須なのだよ」
「なら頭使わなきゃいいのに」
「ええ~!? 頭使わなきゃ研究できないじゃないか。それに入り口のトラップだって毎日毎日、加賀見君が楽しんでくれるように苦心してるんだよ~」
「楽しくないし。苦心してくれなくていいですし」
そこははっきり否定しておく。
「それじゃ。ゴミ捨てて校舎の見まわりにいくので……失礼します」
これ以上つきあうのも面倒だ。軽く会釈して、千歳はゴミ袋を手に所長室を出た。
「あれ? 不評だったみたいだねえ……うーん……89式小銃モデルじゃ物足りなかったのかなあ~……結構良く出来てるのに。六十九連発じゃ不足かな。じゃあ次は二百五十連射可能なAK47あたりに一気にグレードアップしてみようかな……」
ドアを閉めた後にそんな不穏な台詞が呟かれているとも知らずに――