花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
『お前、人の事笑えるのか?』
一瞬、そんなことを思い千歳は綾人を見るも、耳に届いたかすかな声に思考を止める。千早が……笑っている。
クスクスと小さくだけど、笑い声を漏らす千早を見て……やれやれと肩の力を抜き、千歳も苦笑を浮かべた。
『……大丈夫。もう、大丈夫』
自分のことのように、何故かとてつもなく安堵した。
実際、千歳の情報を元に生まれた千早は千歳の分身のようなものだ。
それでいて、千歳がしないあんな笑い方をする千早はやっぱり千歳ではなく千早という別の存在。
それが、答え。
そして、それでいい――
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「いくぞ、千歳」
冷たさを増した風が変色した葉を落とす中佇む白塗りの洋風の建物。その前に揃いのパーカーを着た、よく似た背格好の小柄な後姿が二つ。
「ああ……準備はいいぞ」
ゴム手袋に手を通して、千歳は頷く。
「でも、お前まで付き合う必要はないんだけどな」
「何を言ってる。わたしだって立派なバイトとしてやらねばならないことをやっているだけだ」
「いや……ただで世話になりたくないって気持ちはわかるけどなあ。でも、俺と違ってお前に関しては世話になってるって思う必要ないと思うんだけど。そもそもの原因を作ったのは……」
「いや。気持ちの問題だ」