花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「や、千歳っちてば何その顔。真っ赤だし。どうしたの~?」
 綾人はされるがままに頷きながらもからからと笑いながら千歳を冷やかす。
「ふふ。ちーちゃんと綾人さんすっかり仲良しなんですね~。小梅も嬉しいです」
 そんな様子を見ながら小梅が笑う。
(う…………)
 花みたいな笑顔。それも薔薇とかみたいな豪奢なものじゃなくて、木につくような小さくて……可憐な花びらをひっそり開かせて咲くような花だ。
 やばい。その笑顔は反則だ。そんな顔されたら、こんな腐れ綾人とでもいくらでも仲良くなってもいいような気がしてくる。
「今日はお天気もいいようですから外で食べませんか?」
「うん。そうだね。じゃ、屋上いこっか」
 小梅の提案にのり屋上へ向かう。勿論もれなくお邪魔虫の綾人付だ。
 本当だったら二人っきりで昼休みくらいのんびりしたい。
 何故、綾人と続けて同じクラスなのに小梅と違うクラスに分かれてしまったんだろう……これも理事長の陰謀なのだろうか。
 公立の小・中学と通っている間は、よほど強い運があったのか、それこそ運命としか思えないほどの偶然を積み重ね、ずっと同じクラスだったのだ。それが高校に入った途端にその運が尽きた。
 けれど、それは正しくは運が尽きたというよりは、第三者の介入が邪魔をしているのだと疑わずにいられない。相手が相手だけに……
 それにしても。
(癒されるよなあ……)
 小梅の作ってくれた卵焼きを頬張りながら、じっと目の前で小さな口を動かす小梅を見つめる。小刻みに上下する顎と頬の動きは小動物がヒマワリの種なんかを食べている姿を連想させる。

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