花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
壁と同じ、白塗りの木製のドア。
開くと同時に、研ぎ澄ました聴覚に微かな音を捕捉して、千歳は瞬時に危険を察知した。ドアノブを握っていた方でない手に握っていた道具――フライパン。
それで即座に顔面を庇う。
案の定――戦争映画なんかでよく聴くような派手な連射音が鳴り響き、顔面にかざしたフライパンの底に無数の衝撃が襲い掛かり、破裂音が鼓膜を震わす。
「……こんなもん、何時つけやがったんだ。昨日はなかったぞ」
ドアを入ってすぐ、斜め上から自分に向かい狙いを定める黒い銃身を見上げる。
おそらく昨夜自分がここでの仕事を終えた後に取り付けたのだろう。
天井に上手く金具で固定されたマシンガン的なオブジェのトリガーからドアノブに向かって半透明状の糸が伸びている。
ドアを開けようと外側から引っ張ると糸がトリガーを引く仕組みになっているのはすぐに分かった。
「くそ……また仕事が増えたじゃないか」
床一面に転がる白いプラスチックの弾を茫然と見下ろし、千歳は肩を落とした。
「帰りてえな」
一瞬そんな思いが頭をかすめたが、すぐに否定するように首を激しく横に振った。帰るわけにはいかない。片付けなくてはならない。
そう、千歳はここを片付けるためにやってきたのだから――
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少年の名前は、加賀見 千歳。
たった今訪れているなんともおかしな建物と同じ敷地内にある私立高校、藤之宮学園に通う二年生。十六歳。
少々小柄ではあるがごくごく健康で健全な普通の男子学生である彼が訪れているのは、藤之宮学園科学研究所。