花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「わかった。じゃ、待ってるから」
観念して素直に返事をすると小梅が満足げにふふ、といつもの笑顔に戻る。
正直、有給扱いなんて給料泥棒みたいでなんだか落ち着かない気分だったが、小梅がそれで安心してくれるなら言う通りにしようと思った。
「……う~ん。でも……具合悪かったんなら……やっぱり、昨日のはちーちゃんじゃなかったのかなあ……?」
「え?」
「ん?」
ふと、零れた小梅の言葉に、千歳と綾人の視線が同時に小梅へ向く。
二人の視線が集まったことに気付いた小梅がハッとしたように口元に手を当てた。どうやら無意識にでた言葉だったらしい。
「あ……えっと。なんでもないんです。多分小梅の見間違いだから」
「何が?」
てへへと笑いながら発言を否定する小梅に千歳が訊く。すると、ちらりと上目遣いで千歳を見上げ、小梅はおずおずと口を開いた。
「えと……ちーちゃん。昨日の夜……うちに来たりなんて…………してない……よね?」
ちょっと恥ずかしそうに言う小梅に、千歳は首を傾け不思議そうな表情を浮かべる。
「ううん。来てないよ……なんで?」
「あ……うん。昨日ね、寝る前にカーテン閉めようとしたら道路に人がいてね……それがちーちゃんに見えて、窓開けて呼ぼうと思ったらいなくなってたんです……」
「……小梅まで俺からかうの?」