花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 よりにもよって、綾人はお姫様抱っこでここまで千歳を運び込んだらしい。そんな姿を校内に晒した自分を思うと情けなくて仕方ない。
『一生の……不覚』
 保健室のベッドに腰掛けた状態で、手元にあるシーツをぎゅう、と握り締め、千歳は悔しさと恥ずかしさを噛み締める。
 運びこまれた後に薬を飲まされたのはぼんやりと覚えている。その後そのまま眠ってしまったらしく、再び瞼を開けた時には保健室の窓の外はもう随分と暗くなっていた。
「まあ、よかったじゃないの? 運んでくれて、しかも目覚めるまでついていてくれたんだから……かわいい彼女もね」
 ふふ、と笑いながら千歳の横に座る小梅に目配せをする保険医。小梅の頬が少し赤く染まったのは気のせいだろうか?
 まだ、年若い保険医。なかなかの美人なのだが、少し性格に難有り。そのフレンドリーさがいいという生徒も多いが、どこか人をからかって楽しむクセがあるこの保険医が千歳は苦手だ。
 だから、本当は午後の授業中にはすでに結構しんどかったにもかかわらず、保健室へ行かずねばっていたのだが、結局運び込まれてしまうとは……。
「もう平気? ちーちゃん。帰れそう?」
「うん。大丈夫……帰るといっても敷地内だしすぐだから」
 横から覗きこむ小梅に頷く。

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