花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
実際、随分楽になった気がする。先ほどまでの頭痛がおさまっている。
「まあ、帰ってもちゃんと安静にしてないと駄目よ。鎮静剤で押さえているだけだからね。しっかり食べて、寝て。くれぐれも無理はしないこと」
「はい。お世話になりました」
苦手な相手ではあるが自分のせいで余計な残業をさせてしまったのは確かだと、千歳はきちんと礼を述べて頭を下げるとベッドから立ち上がる。
「先生ありがと~。お邪魔しました~」
「いえいえ。しっかり送ってあげてね」
後ろで会話を交わす綾人と保険医の声を背に、小梅と千歳は並んで先に保健室を出た。
「あの……ごめんな、こんな遅くまで……ありがと」
「ううん。ちーちゃん気にしないで」
「でも、もう外真っ暗だし……大丈夫?」
「平気。綾人さんが送ってくれます」
そんな会話をしながら廊下を歩いていると、すぐに綾人が追いついてきた。
「大丈夫だいじょ~ぶ。千歳っちも小梅ちゃんも、この王子様がちゃーんと送り届けますよ~」
浮かれ気分丸出しの顔。よほど王子と言うフレーズが気に入ったのか……。
その顔を見ると、どっと力が抜けると同時にどこか苛々とした気分になりかけたが、気を取り直して千歳は綾人を振り返ると、
「わ……悪かったな。世話かけて」
俯き加減にぼそりと呟いた。