花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 なんだかんだいってずっと付き添っていたらしい綾人。千歳の為に部活も休んでしまったのだ。迷惑をかけたことには違いない。
 ぶっきらぼうな態度で、礼には程遠い台詞ではあったが……。
「お……おおお!?」
 綾人は驚いた表情を浮かべたかと思うと、すぐさまそれを満面の笑みに変え、いきなり千歳に抱きついてきた。
「ば……っ!! 何する。離せっ」
 どうやら充分に礼になったらしい。
 大喜びで抱きついてくる綾人の腕から逃れるためにもがく羽目になってしまった。
 じたばたする千歳と綾人を見て、小梅は何だか楽しげに微笑んでいる。
「ふふ。本当に仲がいいですね」
 ――やっぱり。
 そこには大きな誤解がある。
 小梅の助けは期待できないので、校舎の出口付近で自力でどうにか脱出し、一足先に千歳は外へと飛び出す。
「ああっ。千歳っち待ってよ~。まだ無理しちゃいけないんだぞっと」
 置いてけぼりをくらった綾人の声が追いかけてくるのを聞きながら、
「いや……お前が無理させてんだろ」
 小声で呟く。

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