花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
千歳は小学生の頃に両親を事故で亡くした。父方の兄にあたる夫婦が身元を引き受けてくれてなんとか今はやっている。
子供のいなかった伯父夫婦は千歳をとても可愛がってくれていて、もちろん高校も面倒見てくれると言っているのだが、伯父が勤める会社も不況の影響で経営状態は思わしくなく、賃金やボーナスが年々カットされているらしいのは薄々気がついている。
これまで良くしてもらってきただけにこれ以上負担をかけるのが悪い気がして、千歳は高校進学せずに働きに出ようかと考えていた。
「試験を受けるお金とか入学金だってばかにならないし。それに、小梅がいくところは私立高校だろ? 公立よりも高いし、それに受かる保証もないし……ほら、俺ってそんな頭がいいわけじゃないし、さ」
小梅は同じ高校に行こうと言っている。けれど、それはとても難しい。
お金のこともだけれど、実際小梅の志望校は人気が高く競争率の高い場所。ある程度の学力も要求されるがてんでそれをクリアできる自信はない。
「そんなの。大丈夫、だってちーちゃん運動神経抜群だもの。スポーツ特待生って手も……それに学費のことだってパパに相談すれば……」
ほわほわとした笑顔で言っていた小梅はそこで小さく「あ」と呟いてぷくりとしたこぶしで手の平をポンと叩いた。
「ちーちゃん、アルバイトなんてどうです?」
「アルバイト?」
「そうです。アルバイトです。パパがちょうど探してたんです……学園の清掃アルバイト。ちーちゃんをわたしが推薦します。試験費用も入学金も全額免除で入学間違いなし」
いいこと思いついたとばかりに小梅は目をキラキラさせて言い出した。
結構な無茶苦茶を言っているけれど小梅にとってそれは無茶な話ではなく現実的な話なのである。