花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
「おいっ!! 何やってるんだよっ」
千歳の異変に気が付いたのか、綾人が大声を上げて駆けてくる足音が響く。それはみるみるまに近づいてくる。
それでも襲撃者は千歳の首を締める力を緩めない。
朦朧としかけた意識の中で、綾人の手が襲撃者の肩にかけられるのが見えた。
「やめろって!!」
容赦なく強く後ろに引っ張られた襲撃者は、いとも簡単に千歳から引き剥がされ地面にそのまま投げ出された。
当然だろう。バスケ部のエースをつとめるほど大柄で力のある綾人に対して、襲撃者の体はあまりにも華奢だ。
「げ……ほっ……けほっ」
締められていた喉が解放されて急激に大量の空気が流れ込んできて、体を前に折ってむせる千歳に綾人はすぐに駆け寄りその背をさすった。
「千歳っち……だいじょぶか~?」
「う……」
まだ苦しげな千歳を気遣いながら、綾人は千歳をこんな目に遭わせた犯人へと振り返る。綾人から投げ飛ばされた犯人は少し離れた場所に尻餅をつくような体制で起き上がろうとしていた。
「おい! 一体なんで千歳っちを……」