花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
問い詰めようとした綾人の声が、途切れた。
犯人を見る綾人の目にも、みるみる混乱の色が広がっていく。当然だろう。自分だってびっくりしたのだ。未だに信じられない……。
ようやく落ち着いてきた呼吸を感じながら、綾人の顔を見て、千歳がそう思っているところへ……もうひとつ近づいてくる足音。
軽い。さくさくと砂を踏む小さな足音がすぐそばまで来て、止まる。
「ちーちゃん、どうしたの? 綾人さんも……って、あれ?」
遅れて到着した小梅が、きょとんとした表情でその場を見渡し、視線を彷徨わせた。
その視線は、千歳と襲撃者の間を何度かいったりきたりして。そして、何故か行き場を無くして、その間にいる綾人のところで止まる。
「綾人さん……あの」
ほんの少しだけ、不思議そうに首を傾げ、綾人に小梅は尋ねた。
「どうして、ちーちゃんが増えてるんでしょう?」
「…………だな。増えてる……よな」
小梅の問いに対し、綾人はその言葉を肯定して眉根を寄せた。
――増えている。
二人の反応はこの状況を実に的確に捉えた表現だと、千歳も思う。
地べたに両手をついて上半身を起こした姿勢で無表情に自分を見つめる襲撃者の顔は、千歳と瓜二つ。いや、顔だけでなく、その体格も……まるでそっくりそのまま千歳をコピーしたかのように全てが千歳と似通っていた。
「あちゃー……もしかしてもしかして、俺ってば千歳っち……投げちゃった?」
戸惑い気味に綾人が口を開く。千歳が襲われていると思い込んで乱暴にひっぺがしたものの、その相手が千歳本人なのではないかと不安になってきたらしい。