花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

「どうして? 嫌だっていっただろ? しんどいって……だから君は加賀見千歳をやめればいいじゃないか。僕が、加賀見千歳になる」
「はあ!?」
 いきなり殴りかかってきた時にも言っていたような気がするが……相手の言う意味がわからない。
「いや……確かに言ったけど……でも、だからって俺は俺だろ? 誰かが俺と変われるわけないだろ? ……ってか、意味わかんねーし。それにお前ほんと、誰なんだよ?」
 そう。相手は結局自分が誰なのかという問いに答えていない。
 千歳は一人っ子だ。兄弟もいなかったし、生き別れの双子がいるなんている話も聞いたためしがない。何故、こんなにも自分そっくりな相手が今ここにいるのかも、ましてやいきなり自分を襲ってきたのかも全く検討もつかない。相手が一体誰なのか……千歳には心当たりがないのだ。
「僕は、千歳だ。君がいなくなれば、僕が千歳なんだ」
 けれど千歳の問いは、やはりというべきか無視された。相手はただ淡々と、自分が千歳だと繰り返す。
「だから、消えてよ」
 また――だ。最初に殴りかかってきた時と同じ台詞。意味がわからない……なんで、どうしてそんなことを言われなければならない。そういや首も締められた。相手は自分を殺す気でここにいるのか?

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