花は踊る 影は笑う～加賀見少年の非凡なる日常～

　思わずさっき締められた喉元を確かめるように、千歳が片手を首にあてようとした時。
「あ～……こういうの……どっかで聞いたよなあ……」
　千歳と並んでずっと二人のやりとりを聞いていた綾人が口を開いた。
「え？」
「なんですか？　綾人さん」
　千歳と小梅に揃って訊かれ、綾人は軽く肩をすくめて見せ、顎に手をあてて、
「ほら、こういうの。聞くじゃんたまに……えーっとなんだっけ……自分そっくりのやつが乗っ取りに来るって……ほら……」
　ごにょごにょと言いながら何度も頭を捻り、そして一呼吸おいてそれを思い出したのか、パッと目を見開いたかと思うと、いきなりバンバンと千歳の肩を叩いた。
「あ～！　あれあれ。怪談話とかで聞くでしょほら。あれだよ……ドッペルゲンガーだ！」
「どっぺるげんが～？」
「…………痛いし」
　小梅は聞きなれない言葉だったのか聞き返し、千歳は叩かれた肩をさすり顔をしかめる。不機嫌な千歳の顔に気が付いた瞬間、綾人はしまったという表情を浮かべ冷や汗を額に浮かべた。
「あああっ。千歳っちごめん！　怒らないでっ！」
　慌てて掌を合わせて頭を下げる。自分よりはるかにでかい図体の綾人の情けない姿に怒る気も失せて千歳はただ溜息を吐くに留めた。それよりも、
「ドッペルゲンガー……ねえ」