花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 綾人の言葉がひっかかった。
 千歳も聞いたことはある。自分そっくりの分身をある日突然見て、しばらくしないうちに見た人間が死んでしまったとか……正体は悪霊で、人間に成りすますために人間を殺して乗っ取ってしまうとか。色んな話が実話だとかで怪奇系のTV番組で紹介されてるのを見たこともある。どれも多少の違いはあれど共通しているのが瓜二つの自分を見るということと、見た人間は死んでしまうという話。
 見た人間がことごとく死んでしまうことから、それを見るのは死の予兆だとされている現象。
 確かに――今、こうして自分と同じ姿をしたもう一人が、自分の名を名乗り、自分に消えろと要求している状況は、まさに俗に言われるドッペルゲンガー現象そのものだ。
「消えてよ?」
 同じ言葉をただただ繰り返す、もう一人の自分の声にハッとする。綾人も小梅もあまりに緊張感がないので思わずそっちに引き摺られてしまったが……ちらりと動かした千歳の視界で、襲撃者が再び拳を握ろうとしているのが見えた。
「やだね」
 そう吐き捨て身構えた千歳の動作に、綾人と小梅も今がどういった状況だったのかを思い出し、襲撃者の方へと視線を寄せる。
「わーっ! ちょっとタンマタンマ!!」
 千歳に飛び掛るようにして殴りかかってきた襲撃者の前に、慌てて綾人が飛び出しその拳を受け止めた。
「邪魔するな」

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