花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 ぶるぶると怖気に身を震わせながら千歳はそんなことを思っていた。そして、その推測は多分正しいもので。それを証拠に、襲撃者はすっかり硬直したかのように掴まれた拳を振り払うことも出来ずに動きを止めたままだ。
「あの……」
 その拳にふと、小さな手がかけられた。
「とりあえず、お話しませんか?」
 綾人の手を解きながら襲撃者に小梅が笑いかける。その声に呪縛が解けたのか、硬直を解いた首が小梅のほうへと顔を傾けた。
「話……?」
 どこかほっとしたように見えたのは気のせいではあるまい。
「はい、お話です」
 解放された襲撃者の表情を見ながら、千歳も、自分自身が綾人の魔の手から逃れたような気分を錯覚しそうになっていたが、小梅の救いの手はどうやら千歳が思いも寄らない方向に向かっている気もしないでもない。
「小梅? 何を……」
 疑問を口にしかけたものの、
「ねえ。ちーちゃんもしたいよね、お話」
 あっけらかんとした声にあっさりと却下された。
「はあ……」
 敵意も威圧感も欠片もないはずの人物の言葉なのに、全てを決定付ける絶対的な力を持っているのは何故だろう。綾人も千歳も、小梅の発言に異議を唱えはしない。それは世界の法則であるかのようにごくあたりまえの事象で、そしてそれはこの場でも変わることはなかった。
 そして、何故か……突如現れた刺客も、その法則に逆らうことはなく――

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