花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
小梅の姓は藤之宮。
彼女の父親は私立学園の若き理事長で、そして――
「大丈夫です。パパはわたしの言うことなら何でもしてくれますから」
にっこりと微笑むあどけない笑顔は歳よりもずっと幼く見える。
けれどその笑顔が持つ脅迫的なまでの威力に逆らえないのは何も千歳だけではない。
本人がその威力を知っているのかいないのかは定かではないのだが、ほぼ、断定に近い小梅の自信に満ちた宣言どおりに事が進んだ所を見れば、彼女の父親が実質上彼女の奴隷状態なのは間違いない。
そんなわけで、千歳が小梅と同じ高校。彼女の父親が理事をつとめる藤之宮学園に通い、そしてアルバイトを始めて約一年半になる。
アルバイトとは藤之宮学園敷地内の清掃をしたり、ゴミを集めて分別をしたり、敷地内の巡回もしたり、設備の点検をしたり……つまりは用務員のような仕事で、それを授業が終わった後に行う。
何故か用務員を雇ってもなかなか続かないとのことで、千歳のアルバイトはすんなりと決まった。
しかもそれには思わぬ特典がついていた。
夜間の校内見回りもあるために、代々の用務員が仮眠や休憩室代わりに使っていた小屋のような建物が敷地内にあるのだが……千歳の家庭事情を知った理事長は、希望するならそこで住み込みで働いてもらってもいいという。
元々、なるだけ早く自立して伯父達の負担を減らしたいと思っていた千歳にはとてつもなく有り難い話。
更に住み込みなら夜間手当てがつき報酬もあがる。
小梅の口添えもあったせいか元々提示された報酬も悪い金額ではなかった。
コンビニやファーストフード店でバイトするより随分わりがいいものだったし、新しく住めるかもしれない小屋は、狭くともちゃんとシャワーもトイレもキッチンもある。
これ以上の環境はどこでも探せやしない。