花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 言いながら上げられた視線が言葉と共に綾人と小梅のほうへと向けられる。そいつが綾人で、その人が小梅、らしい。
「最初はぼんやりしててよく分らなかった。でもちゃんと見たら……知っている、と思った。だから笑ってみた。でも……近づけない気がした。僕は千歳だけど、まだ千歳じゃない」
 自分でもどう説明していいのか困惑しているような、たどたどしい説明。どうやら、意識的にその場に行った訳でもなく、理由はわからないまま能動的に行動をとっていたかのような台詞。
「僕が千歳なのに……どうして、千歳がもう一人居るんだ? 千歳が居るなら僕は……僕は千歳じゃないのか?」
 話をするにつれどこか頼りなげな表情を見せる様子に、もしかすると……自分自身の存在について、本人すらはっきりと自覚出来ていないのではないだろうかと……おぼろげにそんな気がした。
 それにしても、自分そっくりな人間がどこか困ったような様子をしているのを見るのはなんだか居たたまれない気分になる。自分が困った事態に陥っているような、いや、実際千歳もかなり困惑しているのには違いないが……そんな感覚に捕らわれる。
「気が付いたら……ね。じゃあ、一番最初にいたのはどこなんだ?」

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