花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
綾人が思い出すようにそう言った。そう、ここはゴミ置き場。先日荒らされていて、千歳と綾人で掃除をしたその場所。
「とても、散らかってた。僕の上には、破れたビニール袋と紙くずが沢山あって……ああそうだ」
淡々とその時のことを説明していたもう一人の千歳は何かを思い出したように言って、不意に右手を持ち上げた。
「怪我をした。何か割れ物もあったみたいだ……起きようとしたとき手で踏んだ」
千歳達の方へ見せるように向けられた手の平。親指の付け根から続くなだらかな丘稜を分断するように、細く赤みがかったラインが一本走っている。何か鋭利なもので切れたものだと一目でわかる傷。そう大きな傷ではない。だが、その傷を見た千歳を動揺が襲った。
「割れ物……」
目を見開いて傷を凝視する千歳の脳裏に浮かんだものがある。そう、本来ならばここは燃えるゴミや生ゴミを置く場所で割れ物を捨てる場所ではないのだ。だけど、捨てた記憶がある。それも、ごく最近――そう、あの日だ。
「待てよ……嘘だろ……」
千歳の頭の中で、繋がっていくものがあった。全く不可解な現象と、一見無関係に見えたささいな……だけど見落としてはいけないものが一気に繋がっていく。
その割れ物は、多分、間違いなく千歳自身が捨てたものだ。たいした量ではなかったし、その前後の事態に振り回されて正直わけて捨てる元気がなかったから怠慢して捨てたものだ。