花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
いつになく弱気なのを綾人にまで気が付かれてしまっている。そうとう困った顔になってるんだろうな、と千歳は自分の顔を想像した。けれどどうしようもない。平静を装うには衝撃的すぎる……かつ、気力を失うに充分なほどに憂鬱な仮定に行き着いてしまった。
自分はずっとこの調子で、あの変質者の悪行に振り回されて被害を被りつづけるのかと、思うと、いつものごとくげんなりしてしまう。そう、全ての諸悪の根源は――
「あ~……なんていうか……そいつ、多分悪くない。寧ろ、被害者かも」
虚ろな視線を、怪訝な表情を浮かべる自分と同じ顔に向ける。被害者と思えば、凄くかわいそうに見えてきた。自分とそっくりなだけに尚更。
「ちーちゃん、どういうこと?」
「なんていうか……事故、なんだ。多分。とにかく、悪霊とかドッペルゲンガーとかじゃないのは確かだ」
「事故?」
綾人はただただ首を傾げる。そりゃそうだ。こんな説明じゃ何もわかりっこない。確信に近い仮定を言うかどうかまだ迷っている千歳の説明は答えの形にすらなっていない。
どう答えるか困り果ててしまった千歳だったが……。
「あの……事故って……交通事故とかじゃないよね」
救いの手はやはり。けれど、千歳が迷った原因でもあるその本人によって差し伸べられた。
「もしかして……研究での事故……? パパの……」
小梅の一言で、どっと肩の力が抜ける。なるだけなら気付かせたくなかったけど、どちらにせよ話さなくては結論は出せない。気を使っていた相手本人からそこをついてきてもらえたのは千歳にとっては幸運だ。