花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
そこで少し困ったような表情を浮かべて一呼吸、何かを思案した小梅がすぐさまニコリと唇を綻ばせ、
「千早。なんて……どうですか?」
突然そんなことを口にした。
「……え?」
差し出されたハンカチに手を伸ばすこともせず俯いていた襲撃者の肩が微かに反応を見せ、ピクリと小刻みに一度震えた。
「えとですね……お名前。ちーちゃんと同じだと呼びにくいでしょ?」
下から覗き込むように泣き顔を見上げる小梅。
「千早さんが何者かみんなで調べましょう? 千早さんが誰かわかるまでのとりあえずの呼び名……どうでしょう?」
「おお! さっすが、小梅ちゃん。それ、言い案だね~うんうん。みんなで調べようぜ。手伝うよ。千早って名前もかわいいよな!」
小梅の言い出したことにいち早く綾人が飛びつき、すかさず相槌を入れる。
「ね、ちーちゃん」
「あ……うん」
小梅にそう振られ、千歳も頷いた。
「…………」
涙が止まる。無言で……当惑を隠せない、見開かれた目が千歳に向けられた。
「ああ……なんていうかだな。千歳は俺だからな。でも、お前が何者かわからなきゃ俺だって気色悪いからな……調べるの、手伝うぜ」