花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 紹介してくれた小梅に心から感謝して、言われるがままに住み込みの用務員を引き受けた。もちろん雇ってくれた理事長にも心から感謝していた。
 ……しばらくの間は。
 だが、何故、代々の用務員が長続きしなかったのか、すぐに千歳は身体をもって知ることになる。
 そう、その原因こそがこの建物なのだ。

+++

「えっと……確か、このへんに……」
 床に散らばるプラスチックの弾に足をすくわれないよう用心しながら廊下を進む。
 両側に見える幾つかのドア。
 その一つ目を通り過ぎたところで、千歳は壁の床に近いところを目で探りながら昨日ここの掃除に来た時に見つけた怪しげなものを思い返す。
「やっぱり……」
 それは、すぐに見つかった。
 二つ目のドアのすぐ手前の壁。
 千歳の足首ほどの高さのところに五円玉の穴くらいの小さな出っ張り。
 半球状のその表面はレンズらしきもので覆われている。おおかたセンサーか何かの類で、知らずにあそこを通れば何らかのトラップが発動するはずだ。
 敷地内の管理というアルバイトの項目には勿論この研究所の管理も含まれている。
 初めてこの建物に来た時には此処のことを全くわかっていなかった。
 だからいきなり素手でドアノブを握るという、今なら愚行としか思えない行動を躊躇いなくやってしまった。
 結果、千歳はいきなり電流に手を痺れさせるはめになった。
 まさか学校内の建物のドアノブに電流が流してあるなんて誰だって思わない――
 それ以外にも、いきなり金だらいが落ちてきたり、何故か廊下に転がっていたぬいぐるみが拾おうとした途端爆発したりと、とんでもない目に遭った。
 毎日訪れるたびに新たに仕掛けられるトラップの数々。
 科学研究所というよりはカラクリ屋敷だ。
 犯人はいうまでもなく此処の主。理事長。

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