花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 それで結局一番無難な千歳のところへ連れてきたわけだが、正直かなりやりづらい。今でこそ大人しくしているがそもそもは自分を襲ってきた相手なのだ。しかも本当に鏡に映したようにそっくりな人間が目の前にいるのは自分と対面しているようで気持ち落ち着かないし、何を話せばいいかも見当もつかない。
『あれ?』
 コーヒーの準備をしながら、ちらと横目で見てふと気付く。
「おい……ところで、制服。なんかでかくないか?」
 千歳の声に千早が反応して顔を上げる。小さなつくりの顔が乗った首周り、半袖のシャツの襟元が若干大きく開いている気がする。良く見れば、肩のあたりも少しだぶついていた。
「ああ……これ。僕、服がなかったから……部室に誰かが置いて帰ってたのを拝借したんだ。少し大きいけど、裸でいるわけにはいかないからな」
「は……裸!?」
「目がさめたとき何も着てなかったから」
 思わず大声で訊き返した千歳に千早は少し肩をすくめてみせた。
「まじかよ……」
 裸で……何部かはわからないがどこかの部室でロッカーを物色する自分の姿を思い浮かべてしまい、千歳は思わず赤面する。確かに服は必要だ。
「でも……勝手に持ってきちゃな……持ってかれた奴困ってるだろ」
 多分、着替えるのが面倒でジャージのまま帰った奴のものだろう。置いて帰っても次の日困らないことが前提だから予備の制服も持ってはいるだろうが、困っているには違いない。


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