花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~

 仕掛けられるトラップはあきらかに侵入防止のためのものではない。
 鍵を持っていて、玄関から入っても発動するのだから……認証できずに入れば無条件にその者はターゲットになる。
 そしてここの鍵を持っているのは現在では理事長と千歳のみ。
 つまりはターゲットは千歳である。
 現に、玄関で今日千歳を出迎えた電動ガンの銃口は、一般の成人男性に近い体格を持つ高校生達の中でも小柄な部類である千歳の顔面ぴったりに合わせてあった。
「あんの……たぬき親父」
 実際の理事長は狸と呼ぶには程遠いスレンダーな体型なのだが、それはこの際置いておく。
 好条件のバイトに雇ってくれた上に、小梅の望み通りスポーツ特待生として学園にも無事入学させてくれ、至れり尽せりでなんて出来た人なのだと感謝と尊敬の念すら抱いていたのだが、この一年半でそんな化けの皮はとっくに剥げ落ちてしまった。
 そう、そんなに出来た人間がいるはずがいないのだ。
 溺愛する娘が是非に面倒を見て欲しいと連れてきた異性の同級生。気に入るわけがないだろう……という一般的な考え方もあるが、それ以前に元から理事長の色んな部分が破綻しているのはこの建物に入ってみれば一目瞭然だ。
 いや、入らずともわかる。
 玄関横に取り付けられた音声認証装置が出した今日の必須回答項目。それはよりにもよって
「小梅のスリーサイズを答えよ」
という、千歳が答えられるはずもない質問で。

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