闇のプリンス ~ヴァンパイアと純血の戦士~
〝優希〟が前に手をかざすと、渦を巻くように風が集まり始めた。
体が引き寄せられるように、足の踏ん張りは効かず、自然と徐々に前進して行く。
吸い込まれる!
「おやめなさい 」
突然、空から声が降ってきたように響き渡り、風の波が止まった。
すると、草村の方からヒシヒシと歩く音がして、目の前にある人が姿を現した。
私は目を凝らして、彼女を2度見た。
「え、三上......先生? どうして? 」
「俺が呼んだ 」
いつの間に呼んだんだろう。
2人はどうゆう関係なの?
ダークが静かに放った言葉に、私は疑問と違和感を感じた。
三上先生は私の隣へ来ると、「もう大丈夫よ」と優しく微笑んだ。
その落ち着く笑顔を見て、私は我に返った。
「先生、逃げて。 ここにいちゃ危ないよ! 」
殺されちゃう!
この訳の分からない状況を理解する暇もなく、私の額からは恐怖と焦り汗が流れた。
「この子は渡さないわ 」
三上先生は、そう強く言い放ち私の前に立った。
ルキアと顔を見合わせ、彼女が右手を空高くに掲げると、その姿は瞬く間に変貌し、あっという間にみすぼらしい老婆となった。
「み、かみ先生? 」
どうなってるの?
これ、本当に現実世界で起こっていることなの?
こんなの、映画の世界でしか見たことがない。
もしかして、全部私の夢、妄想なの?!
「へぇ、面白い。 白魔女か 」
〝優希〟はフッと口角を上げると、手のひらを空に向け、「ふぅーっ」と息を吹きかけた。
すると、キラキラと粉雪のような結晶が現れて、目まぐるしく私たちを包み込んだ。
スモークのような白い煙に襲われて、ゴホゴホと咳き込む私に、ダークがハンカチを差し出してくれた。
「ありがとう 」
私はそれを受け取ると、静かに鼻と口元を押さえた。