闇のプリンス ~ヴァンパイアと純血の戦士~
「そんな事は分かっておる。 さっきから嫌と言うほど鼻に血の匂いが染み付いておるわ 」
伯爵はペロッと舌を出して唇を舐めると、恐ろしく鋭い牙がちらりと顔を出した。
「ちょっとルキア、これ何なの? 」
ハラハラしながらルキアの背中に隠れると、彼の腕を揺すった。
「私にはその小娘が必要だ。 是非とも欲しい 」
「キュラド様、それについてお話があります 」
隣にいたあの男の人が、キュラド伯爵に耳打ちするように何かを話している。
「ライアー、それは後でよい 」
そう言って手を上げると、手の平にピシッと線のような切れ目が生じた。
その線はゆっくりと裂けていき、大きな目のような物が現れ瞬きをし始めた。
「何あれ、気持ち悪い 」
「さあ、この目をじっと見るのだ。 自然と気持ちが楽になる 」
キュラド伯爵はそう手のひらを前へ出した。
「樹里、見たらダメだ 」
そんな事言われても、目が自然と引き付けられて……
見てはいけないと思っても、勝手に目がそれを追ってしまう。
「キュラド伯爵、ひとつ聞いてもよろしいですか? 」
ルキアが問い掛けると、彼はその声に耳を傾けた。
引き付けられていた物がふと途切れた。
「あなたたちの血族について。 伯爵の著書には、〝ウィンクルム〟という儀式を取り上げたテーマが書かれている 」
「我々特有の素晴らしい儀式だ。 それが何かな? 」
キュラド伯爵は、そう自慢げに鼻で笑って見せた。