闇のプリンス ~ヴァンパイアと純血の戦士~
「何日も経っているはずなのに、目が覚めたら自分の元の場所にいて、その世界の時は止まったままだったなんて事……現実的に有りえると思いますか? 」
彼女の顔を見るのが、少し怖かった。
こんな質問をして、どんな回答が来るのか全く想像がつかなかったから。
「急にどうしたの? 現実的に考えて有り得ないわ。 映画の見すぎね 」
三上先生は一瞬眉を潜めて私を見たが、すぐに温かい笑みを浮かべた。
教師としての当たり障りのない答えに思えた。
「稀に、有りえない事が起こる事もある……それも現実。 でもどうしてそんな事を聞くの? 」
その柔らかい瞳が、シワだらけの彼女と重なった。
「やっぱり、胸の内にしまっておきます 」
「じゃあ、そうしなさい 」
先生はそう笑って資料に目を移した。
私は軽くお辞儀をすると、職員室を出た。
あの出来事を、誰かに話すつもりもないし、彼らの正体をばらす気もない。
ただ、またルキアたちと一緒に平和に暮らしていけたらそれでいい。
「樹里、おはよう! 聞いてよー、実は昨日さ…… 」
優希の言葉が遠くに感じて、まさに心ここにあらずな状態だ。
隣の席に視線を向けるが、ルキアの姿はまだなかった。
早く会いたい。
「さっきから思ってたけど、その机なんだろね 」
私は目をパチクリとさせて優希を見た。
「何って、何言ってるの? 」