大好きの本音と
Step.01 恋した乙女
エアコンなんて高価な物はなく、扇風機がひたすら頑張って回っているだけの教室。
扇風機には申し訳ないけど
全っ然、涼しくない。
むしろ、前の方にあった熱風が全部後ろに回ってきてる気がする。
1番後ろの席のあたしは、いつにも増して憂鬱な気分だった。
だって、今は英語。
大嫌いな大嫌いな英語。
「He had left before one is aware. I don't……」
聞こえてくるのは、大好きだけど1番大嫌いな声。
「柚木舞さん」
栗色の少し長めの猫っ毛に、ノンフレームのメガネ。ひょろっと長細い身体に、垂れた目尻。
にこにこしてて、いかにもお人好しそうな顔をしているこの人。
「あれ、舞さーん」
目の前で立ち止まったもやしみたいな人を、あたしはじっと睨み付けた。
自分の名前を呼ばれてても無視。