青春音楽






「あんたほんまタイミング悪いなぁ」



麻里に腕をひかれて音楽室に入った。



「新しい顧問」



麻里がその女性を指して言ったのは分かった。



「……え?なんで?」



「なんでって言われても」



「だって明日来るって森やん言ってたやん」



そう、新しい顧問は明日来る、と森やんは言った。と麻里が言っていた。



「森やんの言うことなんか当てにしたらあかんかったな」



本当にその通りだ。


どこまで適当なんだあのオヤジは。




黒板を見ると、丁寧な字で『嘉納佳子』と書かれていた。



「…きの…かこ?」



「かのよしこです」



嘉納先生に落ち着いた口調で返される。



「あ、すいません…」



恐らく先生の私の第一印象は『バカ』に違いない。



「じゃあ改めて自己紹介します。
私は今年度からこの学校で、音楽を教えることになりました。
大学を先日卒業し、学校で教師をするのは初めてです。
そして吹奏楽部の顧問にもなりました。
吹奏楽は私も中学から始め、大学では指揮も振っていました」




淡々と説明している先生を見て、とても整った顔をした綺麗な女性であることが分かった。


髪が長いのが印象的で、どこか気品が漂った、お嬢様育ちな感じだ。


この古い学校、埃がたった教室に、嘉納先生がいるのはとても違和感がある。





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