春夜姫
「南から迷って来た鳥だ。見ろ、この見事な青」
「さっさと絞めて、羽根を」
「馬鹿。それじゃあ儲けはたった一度だろう」

 羽根をすっかり取られ、殺されるのだろうと思っていた夏空は、親分にその気がないことを聞いて驚きました。

「お前達は、これから南へ発て」
「ええっ? 帰ってきたばっかりですよ」
「つべこべ言うな。南へ行って、こいつの親鳥を探せ。親鳥じゃなくても、同じ仲間の鳥を捕まえろ」

 親分は真剣な目で、嫌な笑みを口に浮かべました。
「殖やすんだよ」

 二人は奥の部屋を出て行きました。夏空は窓の向こうの城を見ながら、考えを巡らせました。
 かつて、夏空は南の国をあちこち旅しました。が、今の夏空のような鳥は見たことがありません。きっと、人の踏み込まない山奥にいる鳥が、ふらりと人里を舞い、偶然にその羽根を落としていくからこそ、青い羽は重宝されてきたのです。
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