春夜姫
「おい、何を騒いでいやがる!」
 親分が、あわてて奥の部屋に入ってきました。見ると、部屋は荒れて、籠に入っていたはずの青い鳥は、籠を抜け出して部屋を飛び回っています。

 どうして、夏空の王子が籠から出られたのかって?
 北の国のお姫様の物語をご存知の皆さまならお分かりでしょう。夏空の声に耐えかねて、籠の鍵が壊れてしまったのです。

 夏空は親分が開けた扉の隙間から、すっと部屋を抜けました。ちょうど店に入ってきたお客さんとすれ違うように雪の町へ出ました。
「おい! こら! 待て!」
 網を持った親分が、大声を出しながら追いかけてももう間に合いません。夏空は真っ直ぐに城を目指して飛んで行きました。
 丘の上に城があります。夏空は物陰に残った雪をかき分け、その下の泥を纏いました。既に日は落ちて、その泥はまるで氷の着物を着ているように冷たく感じました。
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