春夜姫
 二足の魔法の長靴が並びました。夏空は旅の荷物を背負って、長靴に足を入れました。初め、ぶかぶかで歩きにくいように感じましたが、やがて長靴が勝手に縮み、丁度いい大きさになりました。
「すごいなあ」
「準備は万端ですね、夏空様」
 同じく長靴を履いた春夜姫が隣に立っています。夏空は大きく頷いて、北の国のお城を出立しました。

 民に会いたい、と言っていたのに、春夜姫は立ち止まることなくどんどん歩いていきます。魔法の長靴のおかげで雪に足を取られることもなく進めますが、不安に思って夏空は確かめました。
「良いのです」
 姫は笑顔で前を向きます。
「城下の者には、私の声が戻ったことは既に知れているでしょう。現に、お祝いを言う人が続々と城を訪れています」
「では、姫はその者達に会えばよろしかったのでは」

「どうしても、行きたい所があるのです」
 春夜姫は少し険しい表情になりました。
「私のために、一番心を痛めたであろう人に、この姿と声を聞かせたいの。夏空様ならお分かりでしょう?」
 夏空ははっとしました。
 姫が会いたい人、それはあの森の入り口に住む狩人です。

 
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