[短編]彩華
戸を閉めると、玄関は薄暗い。
草履を脱いだ。

何だかつまらない気分だった。

こん、こん、

戸を叩く音。
振り返って、私は飛び付くようにそれを開けた。

紅珠郎が、立っていた。

「ぁ、い…いらっしゃい…。」
「いらっしゃい、じゃねぇ。いつまで待たせてんだ。」
「…失礼し、」
「散歩に付き合え。」

番傘を片手に、いつものように洒落た着物を来て、紅珠郎は言った。

「そうしたら、なかったことにしてやろう。」

顎で私に外に出るように促して、彼の瞳は私だけを映す。

「雪は、嫌いか。」
「…いや。」
「なら、来い。」

紅珠郎は、私の手を引いて外に出た。

雪はさっきよりも幾らか強まっていたが、紅珠郎が握っている手はずっと暖かいまま。

男と女が手を繋ぐなんて、はしたないと罵られるだろうか。

もう、どうでもよかった。

こんな気持ちも、こんなぬくもりも、知らない。
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