[短編]彩華
***

情事が終わっても、この日彼は私を抱きしめて、放してくれなかった。

柔らかい黒髪が、頬を擽る。

果ての衝撃に惚けていた私は、やっとの思いで我に帰って、それに応えた。

少し早まった鼓動と、上がった体温が、愛しい。

ふと、私は彼の指が器用に動いて内の鉄具を掻き出してくれるところを想像した。

彼の種は、もっと奥深いところに入り込み、私は彼の子を宿すのだ。ややと、紅珠郎さんと、私。何とも、幸せじゃあないか。

─幸せ?

急に、熱が冷めた。

(馬鹿かぁ?てめえは、遊女なんだぞ。)

今の幸せ、今の希望。それだけを見ることは、素敵なことだけど。それは、先がない世界を楽しく生きる為の、私達なりの精一杯の術なのだろう。きっと。

「…どうした。」

「何でもありやせん。」

頬を濡らすのは、情事の時と同じ熱をもった、涙であって欲しかった。
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