[短編]彩華
***
春の日差しは、朗々として柔らかい。
事を済ませた私達は、縁側(と言っても、外は柵に囲まれているから、路から私達は見えない。)に出て、寛いでいた。
互いにおざなり程度に着物を羽織り、私は、紅珠郎を膝枕して、縁側に面した小さな中庭にある、小振りだが見事な桜を見ていた。
風と戯れ、一つ、また一つと少しずつ舞って行く桜の一片は、春の風を仄かな桃に染めている様だ。どことなく、空気が甘く感じられる。
柔らかな光に、膝の上の確かな重み。ほう、とため息をつけば、それはまるで春に酔っているかの様にも聞こえるだろうが、それは全くの逆だ。
喉の奥に、魚の骨が刺さっている様な、不快な胸の感覚に、出所の分からない鈍痛。涙が、瞳の底で燻っている。
苦しい。
「おきょう、」
不意に、膝枕されていた紅珠郎が、声を上げた。
暫く、江戸を離れる事になった。
彼は、静かな声でそう言った。
(…ほら見ろ、夢見て馬鹿見るのはてめえだ。)
己の愚考を、呪った。
春の日差しは、朗々として柔らかい。
事を済ませた私達は、縁側(と言っても、外は柵に囲まれているから、路から私達は見えない。)に出て、寛いでいた。
互いにおざなり程度に着物を羽織り、私は、紅珠郎を膝枕して、縁側に面した小さな中庭にある、小振りだが見事な桜を見ていた。
風と戯れ、一つ、また一つと少しずつ舞って行く桜の一片は、春の風を仄かな桃に染めている様だ。どことなく、空気が甘く感じられる。
柔らかな光に、膝の上の確かな重み。ほう、とため息をつけば、それはまるで春に酔っているかの様にも聞こえるだろうが、それは全くの逆だ。
喉の奥に、魚の骨が刺さっている様な、不快な胸の感覚に、出所の分からない鈍痛。涙が、瞳の底で燻っている。
苦しい。
「おきょう、」
不意に、膝枕されていた紅珠郎が、声を上げた。
暫く、江戸を離れる事になった。
彼は、静かな声でそう言った。
(…ほら見ろ、夢見て馬鹿見るのはてめえだ。)
己の愚考を、呪った。