[短編]彩華
ひしゃげた心の振子は、負の極に振れてしまった。

例えば、彼がまた愛を被った幻想に騙されているとして。私にまた逢いに来てくれたとして。それでどうなるというのだ?

私だって老いる。病気をするかもしれない。

彼は容姿も端麗なのだ。紅珠郎に夢中になる女は、少なくない。
そもそも、私は愛なんて信じていない。

嗚呼、苦しい。

割り切れない感情が、嫌だ。だらだらと宙ぶらりんなのが不快だから、もう私のことは忘れてくれ。

そう、一息に言ってしまえば良い事。良い事なのに、まだぐずぐずと煮え切らない。

帰って欲しいのに、永遠に離したくない。

そうして結局は、手酷く傷つけてしまうのだろう。

私は紅珠郎の頬に、掌を寄せた。

(何時までも触れていたい。)
(恋愛遊戯はいい加減もう止めろ)

「もう、来ない方が良いか。」

僅かな焦りと同時に柔らかさを孕んだ声だった。

(頷け)

(頷け!)

眉を顰める。どくどくと脈打つ躰が、鬱陶しい。

「私達は、桜、なんですよ。」

結局、私は彼に手離されたくないのかもしれない。
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