[短編]彩華
「桜はさ、咲いて散る時が一番美しいでしょう。私は、今咲いてるから美しい、だけど、散っちまったらきっと、紅珠郎さんは、私を何とも思わなくなるでしょうよ。…違いますかね。」

否定して欲しいのだ。
彼の、その深くて甘い声で、雄々しくて逞しい躰で、紅に燃える瞳で。

自分の価値は、自分だけが知っていれば良いとずっと思っていた。だが、違った。彼には、抱き締めていて欲しかった。全て、私の全てを。陰も、陽も。

重いのは、分かっている。

重荷に為るのは、嫌なのだ。だから余計にこんがらがってしまう。

「私が散っちまっても、紅珠郎さんは、私ん所に、戻って来てくれるんですか。」

沈黙が、2人を包んだ。

嗚呼、いっそ私の事を面倒臭い奴だと嫌ってくれりゃ良い。

だが、彼の唇から零れ出した言の葉は、やはり私の考える範疇を裕に凌駕していた。

「そんな事、分かるわけないだろう。」

それは、否定でも肯定でもなかった。
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