[短編]彩華
仕事が終わったので部屋に戻り、私はゆっくりと簪を引き抜いた。

高く纏めた白銀の、長い髪がさらりさらりと落ちる。

鏡を引き寄せて、濡らした手拭いで顔を拭った。

ふう。と深く息を吐いて、一枚、着物を脱いだ。

上質だが、私には似合わない。

表は月が出ていてまだ暗いが、宵の終わりは近い。

その証拠に、狂気じみた活気に溢れかえっていた遊廓通りは静けさに包まれていた。

「……、…ぁ…っ……、…っ…」

薄い壁と襖を隔てて、左の部屋からは艶やかな声が漏れて来る。

あまり、楽しそうには聞こえなかった。

今週に入ってもう3人目だ。
いささか飛ばし過ぎだろう、あの新入り。

この時間帯だ、奉仕活動をする者も多い(勿論金は貰う)。

私は幸いなことに、誰彼としなくても良い程の位だから、しない。

まあ、どうでもいいことだ。
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