[短編]彩華
躰を拭いて、薄い部屋着の着物に着替えた。

小さな格子窓を開ける。

風が通る。

切り取られた小さな世界の中に、美しい月が見えた。

いつの間にか隣の客は帰ったようで、微かに嗚咽が聞こえた。

ほんのしばらくすると、こつん、こつんと壁を叩く音。

─呼んでいるのか。

部屋を抜け出し、どこか遠くからいくつかの艶声が聞こえる廊下に出た。

彼女はすぐ隣の部屋だ。

立っているだけで夜の闇が、ねとりと音を立てて、足にまとわりついてきた。

襖を開く。

小さな燭台の上に、短い蝋燭が灯っているだけなので、部屋の中は薄暗かった。

男と女が交わったばかりの、匂いがした。

狭い黒の中央に、ぼんやりと白い人影。

新入りの「くちなは」が、一糸纏わぬ姿で布団の上に力なく座りこんでいた。

近づくと、性の香だけではない、酷い匂いがする。

彼女の布団の上は、交わりの名残と、吐寫物で汚れていた。
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